私たちのお金は誰が管理する?:デジタル通貨・NFTが問い直す、銀行や国家の役割
私たちが当たり前に使っているお金、誰が管理しているのでしょうか?
私たちは日々、銀行にお金を預けたり、ATMから引き出したり、クレジットカードやスマートフォンの決済アプリで支払いをしたりしています。会社員であれば、給料が銀行口座に振り込まれるのが一般的でしょう。これらの行動の背後には、私たちの想像以上に複雑なシステムが存在しています。そして、そのシステムを管理しているのは、主に「銀行」や「国家(中央銀行)」といった、特定の機関です。
これは、私たちが長年慣れ親しんできた「中央集権的」な金融システムです。お金の発行量や金利といった金融政策は国家や中央銀行が決定し、日々の取引や預金の管理は銀行が行います。この仕組みは、経済の安定や取引の効率性を保つ上で大きな役割を果たしてきました。
しかし、近年登場したデジタル通貨(ビットコインなど)やNFTといった新しい技術は、この「お金は銀行や国家が管理するもの」という当たり前を問い直すきっかけとなっています。それは一体どういうことなのでしょうか?
既存の「中央集権的」な金融システムとは?
私たちが現在利用しているお金、いわゆる法定通貨(日本円、米ドルなど)は、その国家が価値を保証しています。そして、その管理・流通の中核を担っているのが中央銀行と民間銀行です。
- 国家・中央銀行: 通貨を発行し、その国の金融システム全体を監督します。金利を調整したり、市場にお金を供給したり(あるいは引き上げたり)することで、物価の安定や経済成長を図る役割を持ちます。
- 民間銀行: 私たちの預金を受け入れ、送金や融資を行い、企業や個人の経済活動を支えています。銀行口座という形で私たちの資産を管理し、取引記録を保持しています。
このシステムは、特定の信頼できる機関(銀行や国家)が管理することで成り立っています。私たちは銀行や国家を信用しているからこそ、安心して預金したり、通貨を使ったりできるのです。これを「中央集権的」なシステムと呼びます。一つの中心となる権威や組織が、システム全体を管理・コントロールしている状態です。
この中央集権的なシステムには、以下のようなメリットがあります。
- 安定性: 国家や中央銀行が経済状況に応じて柔軟な政策を実行できるため、経済の大きな変動を抑える可能性があります。
- 効率性: 決済システムなどが集中的に管理されているため、比較的迅速な取引が可能です。
- 信頼性: 国が破綻しない限り、通貨の価値がゼロになるリスクは低いと考えられています。
一方で、課題も指摘されています。
- 特定の機関への依存: システムの安定性や私たちの資産は、銀行や国家という特定の機関の判断や健全性に依存します。もしその機関に問題が発生すれば、システム全体が影響を受ける可能性があります。
- 手数料や手続き: 送金や両替といった取引には、銀行などの仲介機関に対する手数料や、特定の時間・場所に縛られる手続きが伴う場合があります。
- 国家の意向による影響: 通貨の価値や流通は、国家の政策に大きく左右されます。また、場合によっては特定の取引が制限されたり、資産が凍結されたりする可能性もゼロではありません。
デジタル通貨・NFTが提示する「分散化」という新しい管理のカタチ
これに対し、デジタル通貨(特にビットコインのような分散型)やNFTは、「分散化」という異なる管理の考え方を提示しています。これらの技術の根幹にあるのが「ブロックチェーン」という技術です。
ブロックチェーンを一言で説明するなら、「みんなで記録を共有し、特定の管理者がいなくても正確性を保てる台帳」のようなものです。取引記録が鎖(チェーン)のように連なって保存され、そのコピーがネットワークに参加する多数のコンピューターに分散して保持されます。そして、新しい記録を追加する際には、ネットワーク参加者の多くの合意(承認)が必要となります。
この仕組みによって、以下のような特徴が生まれます。
- 特定の管理者不在: 銀行のように一箇所で記録を管理するのではなく、ネットワーク全体で管理します。これにより、特定の個人や組織が勝手に記録を改ざんしたり、システムを停止させたりすることが極めて難しくなります。
- 「仕組み」への信頼: 誰か特定の個人や組織を信用するのではなく、「ブロックチェーンという仕組みそのもの」が正しく機能することを信頼の基盤とします。
- 透明性: ブロックチェーン上の取引記録は公開されており、誰でも検証可能です(ただし、取引の当事者が誰であるかまでは通常分かりません)。
デジタル通貨やNFTは、この分散化されたブロックチェーンの上で発行・管理されています。例えば、ビットコインの取引は銀行を介さず、ブロックチェーンのネットワーク上で直接行われ、参加者の合意によって検証・記録されます。NFTも同様に、その所有権情報がブロックチェーンに記録され、管理されます。
この新しい管理の形が持つ可能性としては、以下のような点が挙げられます。
- 低い手数料・迅速な取引: 仲介者を必要としないため、送金手数料が低くなる可能性があります(ただし、ネットワーク状況による変動あり)。また、国境を越えた送金なども迅速に行える可能性があります。
- 検閲耐性: 特定の機関による取引の制限や資産の凍結が難しくなります(ただし、完全に不可能というわけではありません)。
- 個人のコントロール: 自身の資産を特定の機関に預けるのではなく、自身で管理(正確には、管理するための秘密鍵を保持)することになります。
なぜ今、お金の「管理主体」が問い直されるのか?
デジタル通貨やNFTが登場し、分散化という考え方が注目されるようになった背景には、既存の中央集権的なシステムに対する漠然とした不安や課題感があると言えるかもしれません。
例えば、世界金融危機や特定の国の経済不安を目の当たりにし、「本当に銀行や国家を完全に信用して大丈夫なのか?」という疑問を持つ人もいます。また、手数料の高さや手続きの煩雑さに対する不満、インターネットが国境を越えて瞬時に情報伝達を可能にしたにも関わらず、お金の移動にはいまだに物理的な壁や時間のかかるプロセスが残っていることへの違和感もあります。
デジタル通貨やNFTは、「お金や資産の管理は、信頼できる『仕組み』によって、より透明性があり、特定の権力に依存しない形で行えるのではないか」という問いを私たちに投げかけています。これは、単に技術的な変化というだけでなく、私たちが「何を信頼して、誰に、何を任せるのか」という、お金や社会の本質に関わる問いと言えるでしょう。
将来、お金の管理はどうなっていくのか?
では、将来、私たちは銀行や国家の管理から完全に離れて、すべてが分散化された世界になるのでしょうか?
すぐにそうなる可能性は低いと言えるでしょう。既存の金融システムは長年の運用実績があり、依然として社会インフラとして重要です。また、分散化されたシステムにも、例えば問題発生時の責任の所在が不明確になる、技術的な知識が必要になる、価格変動が大きいといった課題があります。
むしろ、これからは中央集権的なシステムと分散化されたシステムが共存・競争していく、あるいはそれぞれの良い部分を取り入れながら融合していく、といった形が考えられます。例えば、多くの国で研究・開発が進められている中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、国家が発行・管理するデジタル通貨であり、これは中央集権的なデジタル通貨と言えます。
デジタル通貨やNFTは、私たちにとって「お金を誰かが管理してくれるのが当たり前」という意識を変え、「自分自身が、どのようにして、何を信頼してお金を扱うのか」を主体的に考えるきっかけを与えてくれる技術だと言えます。
まとめ:新しい時代のお金との向き合い方
デジタル通貨やNFTは、単なる流行や投機対象として語られることも少なくありません。しかし、その技術の根幹にある「分散化」という考え方は、私たちが当たり前だと思っていた「お金の管理主体」に根本的な問いを投げかけています。
これからの時代、私たちはお金を銀行や国家だけに任せるのではなく、デジタル通貨やNFTのような新しい仕組みの存在を知り、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、自分自身がどのように資産を管理し、経済活動に参加していくのかを考えていく必要が出てくるかもしれません。
デジタル領域におけるお金の進化はまだ始まったばかりです。この変化を理解しようとすることは、私たちのお金の価値観を問い直し、将来を見据える上で非常に有益な探訪となるはずです。